胃がんリスク検査(ABC分類)とは、胃粘膜の萎縮の程度(血清ペプシノゲン値)と、ピロリ菌感染の有無(ヘリコバクター・ピロリ菌抗体価)を測定して、将来の胃がんリスクを予測する検査です。
数mlの採血で行うことができ、検査には特に食事や運動の制限はありません。

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「胃は心配だけど、胃カメラは怖い!バリウム検査も放射線被ばく量が気になる!」正直、ほとんどの人がこう思っているのではないでしょうか?このような人たちにとって、一つの選択肢がでてきました。それが胃がんリスク検査(ABC分類)です。

まずは胃がんリスク検査を受けて、胃カメラなどでの精密検査を受ける必要があるかどうかを判断するのも一つの方法です。

ただし、血液による簡便な検査ですので、胃粘膜の状態を調べるのに役立ちますが、胃がんそのものを見つけることはできません。あくまでも胃がんのなりやすさ、リスク(危険度)を調べる検査です。 

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現在、「胃がん検診」として推奨されている検査方法は、上部消化管内視鏡(胃カメラ)と上部消化管X腺(胃バリウム検査)の2つだけです。現在、胃など消化器系に症状のある場合など胃に病気があるかどうかを知りたければ、胃カメラか胃バリウム検査のどちらかを受ける必要があります。

また、胃がんリスク検査は逐年の必要はなく、原則として成人の場合は生涯一度でよいとされています。それは、胃がんの原因であるピロリ菌感染が幼少期(4~5歳頃)までに起こるといわれていて、それによる胃粘膜の萎縮もゆっくり進行していくため、リスクが低下することがないからです。

判定された自分のリスクに応じて、胃カメラなどによる精密検査を受けることが最も重要です。放置せず、消化器内科専門医を受診し、ピロリ菌の除菌治療や定期的な内視鏡検査などを継続することによって、胃がんなどの予防・早期発見・早期治療に繋げることが大切です。

胃がんリスク検査が受けられない人

次の人は、正しい検査結果を得られないため胃がんリスク検査が受けられません。

・胃カメラや胃X線検診で異常を指摘され放置している人
・胃など消化器系の病気、症状がある人
・胃酸を抑える治療薬(プロトンポンプ阻害薬)や、胃潰瘍などの治療薬であるタケキャブなどを服用している人
・胃を切除する手術を受けた人
・腎不全や腎機能障害のある人
・すでにピロリ菌の除菌療法をした人
・肺炎や中耳炎など、抗菌薬を長期的に服用する病気にかかったことのある人
・免疫不全や免疫低下などによりステロイドを服用している人

血清ペプシノゲン検査とは?

ペプシノゲンは、胃の細胞から分泌される消化酵素・ペプシンのもととなる物質です。ペプシノゲンは一部が血中に流れ出しますので、血中濃度を測定することにより胃粘膜でのペプシノゲン生産度が分かり、血中のペプシノゲン量が少ないと胃粘膜が萎縮しているということになります。

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ピロリ菌感染などにより、「慢性胃炎」が続くと胃粘膜の胃液や胃酸などを分泌する組織が減少し、胃粘膜が薄くやせてしまう「萎縮」が進み、「萎縮性胃炎」という状態になります。萎縮がさらに進むと胃粘膜は腸の粘膜のような状態(腸上皮化生)になり、がんに進展するリスクが高くなることが分かっています。

ペプシノゲン値を測定することにより、胃の炎症・萎縮の状態を客観的に調べることができるのです。

ヘリコバクター・ピロリ菌抗体価検査 とは?

胃にピロリ菌が感染していないかを調べる検査です。ピロリ菌は胃酸の分泌や胃粘膜の免疫能の働きが不十分な幼少期(4~5歳)頃までに感染すると考えられ、子供の頃に感染しなかった場合、大人になってから感染することは稀だといわれています。

この検査は、ピロリ菌そのものではなく、ピロリ菌に対して作られる血液中の抗体を調べます。

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ピロリ菌は胃粘膜に生息する細菌で、周囲の強酸性を中和することで胃の中での生存を可能にしていますが、中和する際に作られる毒素によって胃粘膜がダメージを受け続け、慢性的な炎症が生じると考えられています。長い期間炎症が続くと、胃粘膜の胃酸などを分泌する組織が消失した状態「萎縮性胃炎」になります。

このように、胃がんにはピロリ菌感染が深くかかわっています。ピロリ菌感染のない方から胃がんが発生することは非常に少ないといわれています。ピロリ菌感染は、WHOによって最もリスクが高い「発がん因子」に規定されています。

胃がんリスク検査のメリット/デメリット

メリット
血液検査で判定できるため、検査を受ける方の負担が少なく、ピロリ菌に感染していた場合、除菌治療を行うにより胃がんの発生を大幅に抑制することが期待できます。

デメリット

低リスクと判定されても、完全に胃がんのリスクがなくなるわけではありません。ペプシノゲン検査の陰性者でも約1万人に1人程度の割合で胃がんが発見されています。
胃カメラでも胃バリウム検査でもいいですから、一度は検査を受けておくことが推奨されています。

ABC分類と胃がんとの関係

「ピロリ菌抗体検査」と「ペプシノゲン検査」の結果を組み合わせて、A、B、C、Dと胃がんのリスクを分類します。A<B<C<Dの順に胃がんのリスクが高くなっていきます。


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A群 
ピロリ菌感染・胃粘膜萎縮はいずれも否定的です。ただし、A群と判定された場合でも、胃がん発生リスクを完全に回避できるわけではありません。ピロリ菌感染以外の要因でも胃に病変が発生する場合もあります。自覚症状がある場合や家族歴がある場合、また、ご高齢の方やこれまで胃の画像検査を受けたことがない方は、一度胃内視鏡検査などの実施について消化器内科担当医と相談してください。

 B群 ピロリ菌感染の可能性があります。他の検査法でピロリ菌に現在感染しているのか、過去の感染かを診断し、現在の感染が確定した場合ピロリ菌の除菌が必要です。胃粘膜の萎縮は軽度ですが、胃潰瘍・胃がんになる危険性を否定できないので、自覚症状がなくても少なくても2年に1度は胃内視鏡検査を受けましょう。

C群 ピロリ菌感染および萎縮性胃炎があります。胃がんになる危険性があるので、ピロリ菌を除菌し、毎年内視鏡検査を受けるようにしてください。

 D群 高度の胃粘膜萎縮がありピロリ菌が生存できない状態です。1年間の胃がん発生頻度予測は80人に1人と最も胃がん発生リスクが高い群ですので、年1回以上、内視鏡検査を行い注意深く経過観察する必要があります。